靴はローテーションで長持ちするか?

答えはYESであることになっている。ググって調べればすぐに解説は見つかる。ちょっと目にしたQ&Aサイトによれば、ベストアンサーとして次のような説明が載っていた。それによると、1晩靴を休ませたことにより、靴のクッション材が90%回復したとすると、で話が始まり、二次曲線的に劣化していく、となっていた。これを2〜3日のローテーションで休ませることにより99%回復させることができるので…、と説明していた。しかし、この説明は間違っている。まず、クッション材の回復を1晩で90%とする根拠がどこにも示されていない。仮に正しいとしても、これによる劣化は二次曲線的ではなく、指数関数的である。つまり数学的にも間違っている。さらに1晩で90%の回復というのが、如何にナンセンスで根も葉もない数値であるか、以下のように簡単に示すことができる。1晩で90%回復するのであれば、その次の日も履いた場合、90%の90%で81%になる。指数関数の恐ろしさは、ここから始まる。10日だと0.9の10乗で、35%以下に劣化する。100日つまりたったの3か月ちょっと履いただけで0.9の100乗で、実に0.003%以下にまで劣化することになる。たったの3か月かそこらで、クッション性がほぼ0になるような靴というのを私は知らない。因みに2〜3日のローテーションで99%まで回復したとしても、指数関数の恐ろしさは、相変わらず絶大である。100日で既に0.99の100乗で、36%以下まで劣化する。1年365日では、0.99の365乗で2.5%以下である。つまりこの前提の下では、1年分履けば使い物にならなくなることには変わりない。しかし、現実には靴はもっと長持ちである。つまり、あの前提は根本的に間違っていることの証明と言って差し支えないと思う。
また、クッション材以外に考慮しなければならないと思われるパラメタはたくさんある。例えば、ゴム(合成ゴム)、ナイロン等樹脂類、皮革(合成皮革)など靴に使われている素材の経年劣化である。これらすべてについて、使用することによる劣化もあれば、使用しないことによる劣化も、使用不使用に関係のない劣化もある。逆に使い込むことによる良さもありうる。例えば皮について言えば、使い込むほど味が出る、あるいは柔らかくなって履きやすくなる、と言ったことも考えられる。これらすべてを考慮に入れて、毎日同じ靴を履く場合と、ローテーションで履く場合とを論じなければ意味がない。クッション材の劣化とその回復だけをもって「証拠」とするなどというのでは、話にならない。
なお、この議論には根本的に不可解な点が存在する。話を簡単にするために同じ靴を履き続けた場合、1年で使い物にならなくなるとする。この場合、ローテーションにより靴が長持ちするのであれば、2足でローテーションすると2年よりも長く(例えば3年とか5年とか)、3足でローテーションした場合3年よりも長く(例えば6年とか10年とか)もつ筈である。しかし、靴にも流行がある。3年とか5年とか10年とか経てば流行は変わっていて、そのような靴は恥ずかしくて履けない、あるいは最新の靴が欲しい、というような状況は容易に想像できる。従って靴を3年以上もたせても、やっぱり新しい靴を買うのである。つまりこれは、靴屋が靴をよりたくさん買わせる(ローテーションと称してたくさん買わせ、流行が変わって、あるいは意図的に変えてまたたくさん買わせる)ための陰謀なのではないだろうか?